イミグレーション実務研究会もはやくも発足から1年が経過しました。今年のしめくくりとして、初のユーロをテーマとしたレクチャーが開催されました。 上智大学準教授の岡部みどり先生をお迎えして、近年のヨーロッパ情勢からこのヨーロッパに実施されている「シェンゲン条約」からなる「シェンゲンビザ」のお話をいただきました。
もともとユーロは共同体ということから、国境外の移動の自由、そして通貨統一=経済統合、と他地域にもないチャレンジングな体制を実施してきましたが、最近は特に経済力が高い国と低い国における格差問題から多くの難題に取り組んでいます。
昨年の「アラブの春」を機にあらためて、「国境管理体制」の復活の声も多くあがってきているのが現状ということで、特にフランス、ドイツ、デンマークなどにおいては切実な問題となっているようです。 確かに、経済状況が異なる国において、これらの自由移動が発生すると、人の管理の難しさは想像できる状況です。
シェンゲンビザは結構昔から存在しますが、どのくらい機能しているのか…という点も疑問でしたが、実際のところ、シェンゲンビザは発行されるものの、各国その国境管理に関する移民法はバラバラであり、そのような中で、このシェンゲンビザの位置づけも非常に複雑なものと感じました。
1つ、象徴的な事件として例にあげられていたのは、2011年4月~イタリア領内にあるチュニジア国境により近いランベドゥーサ島に大量のチュニジア人 約25000人が庇護申請をしたということです。その後、イタリア政府の措置としては6カ月にこれらの人に一時居住権を与えたということです。 そうなると、これらの人たちはビザが下りたのはイタリアであるものの、ここからEUのしくみとしてEU内は移動自由となるため、大半がイタリア⇒フランスへと移動することで、フランスにとっては大変なお荷物になってしまった・・・という事件があったようです。 結局のところ、イタリア政府も自国においてこれらのチュニジア人を管理しきれない、という背景から、ビザを発給⇒ ほぼ確実にフランスへと移動する、ということを予測して、行っていたことで、フランス政府としては大変な措置となってしまったということです。
一見便利にみえるシェンゲン条約であるものの、これら、加盟国にとってはかなりの問題がおしよせてくる危機的状況にもなりうるわけで、あらためて、国境管理の意義を考えさせられました。
~この事件はまさに2001年8月、オーストラリアでおきたパシフィックソリューションを思い出しましたが、(400人くらいのアフガニスタン人がオーストラリア海域にはいり、ボート上陸を試みた際に、急きょ10日間くらいの間に法改正を実施し、その結果、ナウルで庇護申請を実施することになった・・・という方策)
今、ユーロ経済の不安定さからメディアでも多く取り上げられておりますが、経済事情により人の移動は年々激しくなり、スペイン⇒南米へ、 ギリシャ⇒オーストラリアへ と今までと逆の移民が増加しているのも現状です。 常に経済活動のある場所へ移動が発生する、という理論は普遍であり、これらを考慮すると、今後ますます、ヨーロッパ経済動向や将来の国づくりにおいて、一層複雑化を感じざるを得ません。
あらためて、人の移動は雇用のあるところへ常に移動がある、ということを実感しました。
ユーロ圏内における管理は本当に大変・・・というのが率直な感想でした。 ~オーストラリアはあらためて「人口政策」と「労働市場」をみすえての分析を常に実施する超ち密政策である、ということを実感した次第です。
後半に少し「高度人材ポイント制の意義」のようなトピックスでみなさんとディスカッションしました。
つい5月から日本政府はこの制度を開始したわけですが、一方オーストラリア政府はこのポイント制の制度の雇用ミスマッチを強く懸念し、逆に、今後は雇用が確定している「雇用主スポンサービザ」に重点をおいていく政策へ変化しています。 日本とオーストラリアのポイント制は大きく異なりますが、(日本=原則雇用主がいないと申請できない オーストラリア=雇用主がない場合にポイント制を申請) オーストラリア政府の実施した「雇用主がなくても自分自身の能力による申請」という形はこれから、縮小傾向になるのではないか、という予測です。
結局のところ経済効果を最大限に活かす=各地域(州)にある労働市場においてカバーできない職業を移民でカバーする、ということにより、労働市場バランスをとっていくという考え方に尽きると思います。・・・しかし、これを実施するためには常にデータ分析をする、というち密な研究が必要ということです。
ユーロについてあらためて現状を知ることができたとても興味深いレクチャーでした。
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